金彩扇子について
京都で約百年、四代にわたり京扇子の扇面加工に携わる工房で、箔押しを専門としています。
能や日本舞踊、茶道などに使われる扇子の制作に携わる一方、2015年より「金彩扇子」として、自らデザインした扇子や作品の制作を始めました。
活動の出発点にあったのは、「伝統とは何を受け継ぐことなのか」という問いです。
素材や技法、形を守ることはもちろん大切です。しかし、日本の工芸が長い時間をかけて伝えてきたものは、それだけではないと考えています。
自然の変化を受け入れること。
すべてを表現しきらず、受け手の想像に委ねること。
素材の性質に逆らわず、その中に美しさを見出すこと。
もののあはれ、幽玄、侘び寂びなどと呼ばれてきた日本の美意識も、こうした「ものの見方」や「扱い方」が、芸事や暮らしの中で繰り返し実践されることで受け継がれてきたものだと捉えています。
だから私は、伝統を過去の形として保存するのではなく、その背景にある感覚を、今の社会や暮らしの中でもう一度実践することを大切にしています。
そのための表現手段が、私にとっては箔です。
例えば「燻」では、銀が硫化し、やがて黒へと移ろっていく性質を止めるのではなく、時間による変化そのものを意匠として扱います。
「箔図」では、金銀の輝きですべてを埋めるのではなく、箔と余白の関係によって、見る人の中に情景や感情が立ち現れる余地を残します。
意味を決めるのではなく、意味が立ち現れる余地を残す。
素材、光、余白、時間との関係を設計することで、日本で培われてきた感覚を現代のプロダクトへ翻訳していくことが、現在の私にとっての工芸の実践です。

京扇子から、その先へ
京扇子は、扇骨、地紙、上絵、箔押し、折、附けなど、それぞれの専門職が仕事をつなぐことで完成する工芸品です。
また扇子は、涼をとる道具としてだけではなく、能や茶道、日本舞踊、神事、祭事、仏事などと関わりながら、日本人の所作や祈り、美意識を形にしてきました。
私はその中で「加飾」を担う職人です。
加飾とは、単にものを華やかにする仕事ではありません。
素材をどう見せるか。
何を見せ、何を残すか。
そこにどのような時間や感情を感じてもらうか。
ものと人との関係を整える仕事でもあると考えています。
現在は京扇子を軸としながら、その考え方を家具、インテリア、アートワーク、電子デバイスなど、異なる領域へ展開しています。
受け継いだ技術を同じ形で繰り返すのではなく、その背景にある感覚を読み取り、現代のものへと翻訳する。
形が変わっても、その扱い方の中に伝統が残っていく。
そんな仕事を次の世代へつないでいきたいと考えています。
プロフィール
2009 入職
2015 金彩扇子の制作、販売開始
2018 京都府 京もの認定工芸士 認定
2023 経済産業省 伝統工芸士 認定
2024 京都市 未来の名匠 認定